昨年末から今夏にかけ、人権問題の専門家らがロンドンに会し、中国の臓器狩り問題について開かれた民衆法廷。約一年にわたる審議(五十名の証言、千ページを超える資料、ドキュメンタリー)の結果、「中国における無実の人々からの強制臓器収奪は間違いなく行われており、現在も続いている」と結審した。八月九日、参議院議員会館の101会議室でSMGネットワーク(中国における臓器移植を考える会 加瀬英明代表)は、この民衆法廷の報告会を開いた。この法廷に証言者として出席した二人をゲストに迎え、中国臓器狩り問題に関する国際民衆法廷の報告、日本にできることを提示してもらうと同時に、ウイグル問題を含めた最新の中国人権事情を解説した。また、「国における臓器移植を考える全国地方議員の会」の活動も報告された。

月刊フォーNET(2019年9月号)中国臓器狩り問題

※8/9、東京の参議院会館で開催されたの「中国臓器狩り問題 国際民衆法廷報告会 & 第2回SMG臓器移植を考える全国地方議員の会 総会」の記事です

中国臓器狩り問題

国際民衆法廷報告会を開催
(主催・SMGネットワーク)

 

会場内の様子

昨年末から今夏にかけ、人権問題の専門家らがロンドンに会し、中国の臓器狩り問題について開かれた民衆法廷。約一年にわたる審議(五十名の証言、千ページを超える資料、ドキュメンタリー)の結果、「中国における無実の人々からの強制臓器収奪は間違いなく行われており、現在も続いている」と結審した。八月九日、参議院議員会館の101会議室でSMGネットワーク(中国における臓器移植を考える会 加瀬英明代表)は、この民衆法廷の報告会を開いた。この法廷に証言者として出席した二人をゲストに迎え、中国臓器狩り問題に関する国際民衆法廷の報告、日本にできることを提示してもらうと同時に、ウイグル問題を含めた最新の中国人権事情を解説した。また、「国における臓器移植を考える全国地方議員の会」の活動も報告された。

加瀬英明 会長

民衆法廷とは

 

民主法廷とは、国際法上問題がある行為が発生していると考えるNGOや市民等が、自主的に有識者を集めて構成する模擬法廷。過去に、ベトナム戦争、湾岸戦争、原爆などに関して開かれている。今回の法廷には三十人の専門家が証拠を提示するために出廷し、エリザベス女王から権威を授与された勅撰弁護士であるジェフリー卿が議長を務め、審理が進められた。今年(二〇一九)六月十七日、最終判例として、中国では相当な規模で臓器の強制摘出が行われており、臓器供給源は収容された法輪功学習者やウイグル族と考えられると結論付けた。

理由は、中国の医師と病院が約束する臓器提供までの異常に短い待機期間、政府及び病院が公表する自発的な臓器提供を大幅に上回る臓器移植手術の回数、そして、任意臓器提供プログラムの計画が行われる以前に「臓器移植手術の施設と医師の大規模なインフラ整備」がある事などを挙げている。

判決文には、「犠牲者、死者に関してはナチスドイツによるガス室での虐殺、クメール・ルージュ、ルワンダのツチ族の虐殺にも比肩できる。しかし、罪のない善良な人々の心臓その他の臓器を盗み取り、魂そのものを破壊する行為の前には、これら歴史上の重大虐殺事件ですらいささか色褪せて見えるほどだと言える」という文言が盛り込まれた。

エンヴァー・トフティ氏

この日、招かれた証言者は、元外科医のエンヴァー・トフティ氏と国際弁護士のデービッド・マタス氏。
トフティ氏は、アニワル・トフティとしても知られる。一九六三年、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)のハミ(クムル)市生まれ。ウイグル自治区の首都のウルムチ市で小学校、中学校の教育を受ける。シヘジ医科大学を卒業後、腫瘍外科医として鉄道中央病院で十三年間勤務。一九六四年より四十六回にわたるロプノル地域の核実験を、不相応に高い悪性腫瘍の発生率から確認。ドキュメンタリー映画「Death on the Silk Road」(死のシルクロード)(一九九八年イギリスchannel 4)の制作協力により英国に政治亡命し、積極的に種々の国際会議や公的な討論の場に参加して、ロプノル(Lopnor)の核実験の事実を広め、実験の犠牲者のために闘う。英国では、世界ウイグル会議とは離れ、個別のウイグル擁護運動に取り組み続ける。シルクロード・ダイアローグというオンライン上のプラットホームを設定し、様々な利益集団が、礼儀あるやり方で意見交換や論争点の討議ができる場を提供している。

英国に在住することで、意識が変化し、一九九五年に上司の命令で一度だけ行った囚人からの臓器摘出に対する罪悪感に目覚める。以来、世界各地の公聴会や上映会に参加し、中国での臓器収奪の真実を訴えている。

デービッド・マタス弁護士

マタス氏は、カナダのウィニペグを拠点とする国際的な弁護士、著述家、研究者。二〇〇九年カナダ勲章、二〇一〇年国際人権協会スイス部門人権賞、二〇一六年ガンジー賞など多くの賞や栄誉を授かる。二〇〇六年、Bloody Harvest: Organ Harvesting of Falun Gong Practitioners in China(血まみれの臓器狩り:中国での法輪功修煉者からの臓器収奪)と題する報告書をデービット・キルガー氏と共著で発表。マタス氏もキルガー氏もこの問題に関する調査のため二〇一〇年ノーベル平和賞候補となる。二〇〇九年にはBloody Harvest-The Killing of Falun Gong for Their Organs (Seraphim Editions)として一冊の本にまとめる。(邦訳『中国臓器狩り』アスペクト社)、二〇一二年State Organsを共編。(邦訳『国家による臓器狩り』自由社)、二〇一六年An Update to Bloody Harvest and The Slaughter(『血まみれの臓器狩り』『The Slaughter』最新報告書)をイーサン・ガットマン氏とキルガー氏の共著でEOP国際ネットワークのサイトより発表。同報告書は、メディア報告、公的なプロパガンダ、医療関係誌、病院のホームページ、アーカイブされた削除済みの大量のホームページなどからの情報を合わせ、中国における数百件の病院の移植手術の開発計画を綿密に精査している。

 

冥福を祈る毎日

 

まずトフティ氏が、自身の経験と現状を発表した。経験談では、「一九九五年夏に上司の命令で一度だけ、生きた処刑者から肝臓と腎臓を摘出させられました。処刑場で待機し、銃声が鳴ったら中に入れと言われました。摘出した人は囚人服ではなく私服で右胸を撃たれ、まだ生きていました。メスを入れるとまだ血が流れていました。心臓がまだ動いていのです。看護婦は逃げ出そうとし、私も手が震えました。でもその場では拒否する余地はありませんでした。言われた通りにする、そのような状況でした。当然、移植のためというのも分かっていません。

当時、英語が分からない私が臓器狩りのことを知ったのは、亡命先のロンドンで香港、台湾で発行された中国語新聞で知りました。自分がやった摘出手術は臓器狩りだったと分かり、罪悪感が募りました。処刑者の名前も人種も宗教も分かりません。以来、モスク、寺院、教会などで機会があるごとに彼の冥福を祈っています」と告白した。

また、「元々中国人は遺体に傷を入れるのを嫌がるから、ドナー(臓器提供者)は少ないはず。それにもかかわらず、年間十万件もの臓器移植が行われるのは、不可解だ。二〇〇六年には湖南省の病院では臓器二十個を無料で提供している。その臓器はどこから持ってきたのか」という。また、一枚の写真を説明。二〇一七年秋、中国の新疆ウイグル自治区カシュガルの空港床上に現れた通行標識だった。簡体字で「特殊旅客、人体器官運輸通路」と書かれている。「人体器官」とは、人間の臓器のことで、「『ここは大至急運び出さなければならない切りたての移植用臓器が通る道だから一般人は並ぶな』と言っているのです。中国では人間の命は非常に安い。臓器のほうがずっと高い」。

次の映像では、ウイグルの病院で血液検査を受けるために並んでいる模様が紹介された。「中国政府からの説明はなく、恐らくウイグル人を対象とした臓器バンクのデータベースを作るためのものではないか」。また、別の映像を紹介して臓器狩りの実態を説明した。

トフティ氏は最後に「ある日、突然いなくなった人々はいます。新疆ウイグルでは一九九五年から二〇〇七年の間に、十万人もの人が行方不明になっています。しかし、臓器を摘出された人は死んでいるので、証言者がいません。これは分かっているだけの数字で、現在は全く分かっていません。現在、二百万人のウイグル人が収容所に入れられています。アメリカの調査では、八十万人から二百万人という数字があります。この人たちが潜在的ドナーです。いつ臓器を摘出、殺されても不思議ではありません。ウイグル人の他にもチベット人、法輪功、地下教会の信者も臓器収奪の対象になっています。ウイグルでは、大人たちが収容所に入れられているので、親がいない子どもたちがたくさんいます」と訴えた。

 

パンダと民衆法廷

 

世界で初めて中国政府による臓器狩りの実態を発表したマタス氏は、「臓器狩りとは、臓器を強制的に収奪すること。中国では、政府によって病院と収容所が一体となって、工場のように国家ぐるみで臓器を収奪している」と指摘。臓器を収奪されているのは、「何の罪もなく生きたまま臓器を抜き取られる『良心の囚人』で、法輪功の学習者、ウイグル人、地下教会といわれるクリスチャンがターゲットになっている。法輪功は心身を向上させる中国の伝統的な学習方法で、中国政府は一九九〇年末までに七千万人の中国国民が学習していると発表、共産党員を上回る数となったため、当時の江沢民国家主席が、法輪功学習者の拡大に脅威を覚えて、迫害し始めた。また、中国国内では政府の「法輪功は邪教である」というデマが流される。学習者は次々と捕まり拷問され、最後には臓器を収奪された」と説明した。

次にパンダのぬいぐるみの写真を紹介。このパンダは、チェコのアーティストが中国の臓器移植をイメージさせるために作ったもの。パンダは中国を象徴する動物で、そのパンダを人間の赤ん坊に模して制作されている。その体には傷が縫合されており、その糸は人の髪の毛が使われている。ぬいぐるみを臓器移植ストップ運動の象徴にしているが、マタス氏は「民衆法廷とパンダには共通点がある。それは、この事実をどうやって伝えていくかという目的だ」という。続いて、未公開の臓器狩りについてのドキュメント映像を流した。

民衆法廷 最終裁定(まとめ動画:9分)

 

マタス氏は世界の動きについて、「米下院議会は『移植臓器販売の目的で宗教犯、政治犯を殺害することは、言語道断な行為であり、生命の基本的権利に対する耐え難い侵害である』として、『すべての良心の囚人からの臓器狩りを即刻停止することを中華人民共和国政府と中国共産党に要求する』などの内容を含む六項目の決議案三四三号を採択した。欧州議会も同様の決議案が通過していている。この他、イスラエル、スペイン、イタリア、台湾、ノルウェーでは、違法移植を禁止する法律が成立している。欧州議会の決議案には欧州以外の国も批准でき、最近ではコスタリカが批准した」と報告。また、民衆法廷の判決が出たことで、腰が重たかった英国議会もにわかに動き出したという。

最後にマタス氏は、日本に望むこととして「まずは多くの人に伝えて知ってもらうことだ。インターネット上には専門家向けの情報も公開しているので、医師など専門家にも紹介してほしい。そして、日本が中国のこの行為に加担しないことだ。日本が加担しない方法は、まず中国の移植医に研修等で技術を教えないこと。日本から移植で中国に渡航することも加担していることになる。

欧州評議会で決議された条約には欧州以外の国も署名できるから、まず日本政府が署名するように国民的運動を展開すべきだ。そうなると、他のアジア諸国も署名することになるだろう。国内の地方議員のネットワークの次は国会議員のネットワークを作り、議連に発展させて法整備を働きかけてもらいたい」と訴えた。

 

 

(質疑応答)

 

なぜ、日本のマスメディアは報道しないか

野村旗守 事務局長

問 他の団体と連携する予定は?

 (事務局)現在、臓器狩りの最大の犠牲者である法輪功学習者、ウイグル人と連携しているが、今弾圧されている地下教会信者などとも連携したい。今後は台湾、韓国でも反対運動が起きているのでこれらの団体との連携を促したい。

 

問 日本のマスメディアはなぜ取り上げないのか?

答 (事務局)会の発足から二年、毎回プレスリリースを送っている。最初は各社の記者も来てくれていた。しかし、取材しても報道されなかった、最近は取材にすら来なくなった。中国が最も触れてもらいたくない臓器狩り。推測だが、各社の上層部が中国政府と深い交流があって、中国に対する配慮があるのでは。その背景には、中国政府による大手メディア幹部の懐柔、もしくは縛りがあるとしか考えられない。これだけニュースバリューがあることを報じないままでは、日本国民が無知、無関心の状態に陥るだけだ。沈黙しているメディアの罪は大きいと思う。

 

問 日本人の渡航移植の流通ルートは?

答 (マタス氏)ブローカーもいるが、病院自体も直接受け付けている。中には日本語など四カ国語対応の病院もある。問題は、渡航移植をやりすい状態にあることだ。

(事務局)ネットで検索すれば、ブローカーの団体がいくつか見つかる。日本人が渡航移植する温床になっている。問題は、日本政府がこうしたことを放置していることだ。

(トフティ氏)最近はアラブの富裕層が移植を受けている。イスラム教の豚肉、アルコール禁止というハラール臓器が、通常の三倍の価格で売られているそうだ。

 

問 活動に対する妨害は?

答 (マタス氏)何度か体験した。オーストラリアのブリスデンでのイベントに招かれた時、開催前日に私を招聘した新聞社に弾丸が撃ち込まれた。中国領事館の圧力で、サンフランシスコ、オーストラリアなどイベントが直前キャンセルされることは数度ある。香港では中国政府の協力者から私のスピーチ中に大声で邪魔されたこともある。フロリダ・ゴールドコーストのイベントでは、接続されたインターネット経由で「私はインターネットポリス。あなたは自分の生命を危険に曝しています。怖くはないですか」という脅迫を受けたこともある。私が「法輪功学習者の虐殺から目を背ける前に、虐殺を阻止してください。私を威嚇しても仕方がありません」と答えると、メールは来なくなった。

(トフティ氏)中国の妨害工作は実に巧妙。ウイグルの友人との連絡は全く取れない。取れるのは、唯一母親だけだ。母は地元の検察官だったために政府も手を出せないからだろう。

 

「地方議員の会」の活動報告


丸山治章氏

現在、地方議員の会の賛同議員は全国百九名にのぼり、既に七十七の地方自治体から中央政府に向けて意見書を提出してもらうことになっている。

代表世話人で神奈川県逗子市市議の丸山治章氏が、「国連常任理事国による人類史上稀に見る犯罪行為を知って、いち日本人、いち地方議員として何ができるかと活動を始めた。同志の議員の活動内容を知ってもらい、このことを広めてもらい、すそ野を広げてこの犯罪を防ぎたい」と挨拶した。

川崎市の活動状況を報告したのは、SMAGネットワークの根本敬夫氏。川崎市での上映会はこれまで十二回開催し、毎回満席で入場を断ることもあるという。協力者がチラシを何万枚も配ってくれるため、動員に貢献している。参加者からは、「貴重な映像を観ることができた。対岸の火事でないはずだが、マスコミは何も報道しない。日本を守るために何をなすべきか」(五十代女性)、「大変驚き、胸が痛くなった。今まで知らなかったことが恥ずかしい。マスコミが報じないので、自分たちでこのような上映会を開くしかない。これから友人と相談したい」など多数のアンケートが返ってきている。現在、映画配給会社、ネット配信会社に持ちかけているが、「何らかの圧力がかかっているのだろう」、まだ配給できていない。「上映会を開きたいという希望があれば、できるだけ協力したい」と呼びかけた。


三井田孝欧氏

新潟県柏崎市の前市議三井田孝欧氏(副代表世話人)は、初当選を果たして間もない頃にこの話を聞いた時には「ファンタジーだと思った」という。しかし、何度か話を聞いていくうちに真実だと確信した。地元の後援者からは地元のことをやれと批判された。「なぜ地方議員なのに、人権問題に取り組むのか」という悩みを抱えたという。また、新潟に大型の中国領事館移設問題で反対運動に加わったため「反中国派だからウソ」だと言われたこともあったという。そうした中で、本格的に活動を始めたのは「公人として、人権を大切にする日本人としてやるべき」と決断して立ち上がった。

真実を広めるためには、最初から全部説明すると理解を得にくいので、一からじっくり説明して理解を深めてもらう努力を重ねている。また、現在公立中学校で社会科の授業をもっているので、生徒たちには「天安門事件」を教えた上で臓器狩りの話をすると、すぐに理解してくれるという。

石橋林太郎氏

石橋林太郎広島県議(副代表世話人)も最初は半信半疑だったが、トフティ氏と直接話を聞いて確信する。その後、ミニ上映会を広島市、東広島市、呉市などで開くようになり、今年はすでに七回開催している。その間、協力者も増えて現在四人で活動している。いずれは広島県内の全市で開催を目指している。「反中国、イデオロギーを超えた、超党派の取り組みが必要だ」と今後の課題として挙げた。

来場いただいた賛同議員の皆さんとエンバートフティ氏・デービッドマタス氏

他にも、中国の迫害の実例や在日ウイグル人が受けた中国政府からの妨害などのケースも紹介された。

 

 

その他リンク

ETAC「最終裁定 6月17日」

中国による「良心の囚人」からの強制臓器収奪に対する民衆法廷(英語)

月刊フォーNET (「日本再生」は九州から!九州の歴史、経済、道徳をまとめ た九州発の月刊誌)