現在英国で開かれている「中国の強制臓器収奪に関する民衆法廷」(通称「中国 民衆法廷」)に関しては本誌前号で河添恵子氏がその概況を紹介したが、
このほど昨年十二月八日から十日までの三日間にわたった第一回公聴会の全容が明らかになったので、
後を引き継ぐかたちで詳細をお伝えしたい。
三日間、三十名にわたった陳述のなかで、とりわけ注目を集めたのは、ウイグル出身で現在はカザフスタン国籍のウメル・ベカリ氏と、通貨偽造容疑で逮捕されていたスウェーデン人のジョージ・カリミ氏だった。ともに一日目の第二セクションに登場した。彼らの証言が人々の関心を引いたのは、ともに中国の留置場や収容所に長期間拘束された経験を赤裸々に語っているからだ。(野村旗守)

月刊WiLL-2019年3月号:「中国「臓器狩り」の実態」

 

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中国「臓器狩り」の実態

 

野村旗守

 

一九六三年生まれ。立教大学卒。外国人向け雑誌編集者などを経てフリーに。主著に『中国は崩壊しない─「毛沢東」が生きている限り』(文藝春秋)、『北朝鮮 送金疑惑』(文春文庫)、『Z(革マル派)の研究』(月曜評論社)、編著書に『わが朝鮮総連の罪と罰』(文春文庫)、『北朝鮮利権の真相』『沖縄ダークサイド』『男女平等バカ』(以上、宝島社)など多数。

 

 

 

咳をした拍子に腹部の大きな縫い目から血が飛び跳ねた・・・・

異例の中間報告

 

 

現在英国で開かれている「中国の強制臓器収奪に関する民衆法廷」(通称「中国 民衆法廷」)に関しては本誌前号で河添恵子氏がその概況を紹介したが、このほど昨年十二月八日から十日までの三日間にわたった第一回公聴会の全容が明らかになったので、後を引き継ぐかたちで詳細をお伝えしたい。

会場は、ロンドン中心部のカムデン区、ホルボン駅のすぐ側にあるグランド・コノート・ルームズ──英国特別重要建造物にも指定されるジョージ王朝時代の由緒ある建物だ。近くには王立裁判所や法廷弁護士の育成・認定を行うリンカーン法曹院もある。

この伝統建築三階集会場に、国際法、人権法、移植医学など、関係各分野の専門家からなるパネリスト七名と証言者三十名を集めた民衆法廷は開設された。そして、集中的な証人喚問の結果、「本法廷メンバーは全員一致をもって、全く疑いの余地なく、中国でかなりの期間、極めて多くの犠牲者に関わり、強制臓器収奪が行われてきたことを確信する」 ──との中間報告を早々に発表した。

公聴会第一回にして異例の中間報告を発表したのは、これによって、いま現在も中国で犠牲になりつつある生命を一つでも救える可能性がないとは限らない──との配慮からである。正午からの記者会見の後、「法廷」一日目は始まった。

正面、一段高い台座のテーブル席に、議長のジェフリー・ニース卿を中心とした七名の裁判団(パネリスト)が横並びに座り、右側に進行役を兼ねた起訴代理人で今回の民衆法廷顧問を務めるハミッド・サビ氏とその助手たちが座った。ニース卿は英国女王勅撰弁護士(Queen’s Counsel)であり、旧ユーゴ国際戦犯法廷では検察官としてミロシェヴィッチ元大統領を追い詰めた人物。またサビ氏は、八〇年代にイランの政治犯虐殺を調査した民衆法廷でも起訴代理人を務めたことがある。

そして、左側に設しつらえた証人台に証言者が順繰りに立ち、それぞれの証言を陳述してゆくという形式だ。その後ろ、「傍聴席」には記者たちを含めた一般参加者が座り、同時通訳機のヘッドホンを着けながら「法廷」を見守った。

三日間、三十名にわたった陳述のなかで、とりわけ注目を集めたのは、ウイグル出身で現在はカザフスタン国籍のウメル・ベカリ氏と、通貨偽造容疑で逮捕されていたスウェーデン人のジョージ・カリミ氏だった。ともに一日目の第二セクションに登場した。彼らの証言が人々の関心を引いたのは、ともに中国の留置場や収容所に長期間拘束された経験を赤裸々に語っているからだ。まずはベカリ氏の陳述。──質問を投げているのは、サビ氏である。

 

ウメル・ベカリ氏による証言(0:59~1:26)

君と話す必要がある

──カザフスタンに移住したのはいつですか?
ベカリ 十二年前です。現在はカザフスタン国籍です。以来、仕事のためにカザフスタンとウイグルを往復していました。もともとウイグル人ですので、往復は難しくありませんでした。二〇一六年からカザフスタンの旅行会社で働いていました。 一七年三月、カザフスタンの首都アスタナで開催予定だった産業見本市の準備会議に出席するため、ウルムチへ来ていました。そして、三日間の会議を終えて家族と会うため、ピチャンに行きました。 ところが着いた翌日の午前十時に家に警官が来て「私と話す必要がある」と言うのです。五人の制服警官は、「あなたは我々を知らない。しかし、我々はあなたを知っている」と、不気味なことを言いました。三月二十六日のことです。一枚の書面もなく連行され、何の証拠もなしに収監されました。カザフスタン国籍であるにもかかわらず、十カ月以上も囚われの身となったのです。

──どんな理由で逮捕されたのですか?
ベカリ テロ扇動と、テロ活動を組織化した容疑だというのです。そしてテロリストであることを隠している──として執拗に責め立てられました。(略)再び「君と話す必要がある。三十分で終わる」と言われ、ダリヤツ警察署に連れて行かれました。そこで二時間近く話しました。さいわい携帯電話を取り上げられることはなかったので、妻と近しい友人たちに連絡して警察に拘束されている現況を伝えました。妻も、友人たちも、とても心配していました。 その直後です。私の携帯電話は設定を変更され、使用できなくなってしまったのです。そして「県の役人に会う必要があるからピチャン県の警察署に連れて行く」と告げられました。 手錠を掛けられ、黒頭巾を被かぶせられました。「なぜ、そんなことをするのか?」と問うたところ、「規則であり、皆にこうしているのだ」という答えが返ってきました。 まず病院のようなところへ連れて行かれ、身体検査と採血が行われました。全身の検査のあいだ、頭に被せた頭巾が取られることはありませんでした。 その間、医者たちの会話を聞きながら、生きたまま私の体を切り裂き、臓器を取り出して売り払う相談をしているのではないか──と、恐ろしくなりました。ウイグル人に対する臓器狩りの話はカザフスタンにも嫌というほど聞こえてきたからです。 検査が終わり、連れて行かれたのは留置所でした。囚人服に着替えさせられました。房のなかには他に十三人の若い男性がいました。全員ウイグル人で足枷を嵌はめられていました。私も足枷を嵌められました。(略)その後、四月三日、カラマイに連行されました。──また頭巾と足枷を?ベカリ 手錠と足枷は着けられましたが、今度は頭巾はありませんでした。 ヤーレンブラク警察署に連れて行かれ、地下室に入れられました。リウという漢族の所長が私に尋問しました。口汚い言葉で罵ののしられましたが、私は反応しませんでした。反論でもしようものなら、さらに立場が悪くなるからです。 彼は私の四十三年間の人生について質問を始めました。二日間、一睡もさせてもらえませんでした。彼は言いました。「どこの組織と連絡をとっているのか? 今回の入国の目的は? カラマイでどんな任務を遂行したか? 多くのウイグル人がカラマイからトルコ、シリア、欧州に逃げた。お前も手引きした。さらには複数の組織にカネを渡していた」 私はすべてを否定しました。私の回答を記録した文書を一時間ほどかけて確認し、署名しました。「お前はたまたま外国籍だから幸運だった。さもなくば我々の激高を体験したところだ」  署長は最後にそう言い、二週間後、私はカラマイ留置所に連行されました。(略)

──留置所にいた時、突然いなくなった囚人はいませんでしたか?
ベカリ 毎週三〜四人、時には五〜六人がいなくなりました。当時は再教育施設に入れられたか、釈放されたのだと思っていました。

 

党に感謝し、習主席に感謝し……

 

 ベカリ氏はその後、再教育のための収容所に移され、二十日間を過ごした。 この再教育収容所こそ、古くは戦時中捕虜となった日本兵の思想改造を行った撫順ぶじゅん戦犯管理所や、労働を通じて政治犯を思想改造する各地の労改など、共産中国が建国以来営々と技術を磨き上げてきた洗脳工作機関に他ならない。収容所でベカリ氏は、徹底した社会主義礼賛教育、習近平主席個人崇拝教育を施されたという。

──房はどのくらいの広さでしたか?
ベカリ それほど密集はしてませんが、それでも二十人以上収容されていました。カメラが設置され、常に監視されていました。十代の若者もいれば、中高年もいました。政府職員、学校教師、医師、弁護士……様々な職業の人々がいました。一家で収容されている人たちもいました。

──全員ウイグル人ですか?
ベカリ 七~八割はウイグル人で、あとの二~三割がカザフ人でした。他の民族はいませんでした。

──そこでの生活は?
ベカリ まるで軍隊の兵舎です。毎朝七時三十分の国旗掲揚に参加しなければなりません。朝食の後、「共産党がなければ新中国もない」や「社会主義は良い」などのアカの歌を歌わされます。全員が歌わなければなりません。さらに食事の前に「党に感謝し、国に感謝し、習主席に感謝し、習主席の健康、長寿、いつまでも若くいられることを願います」と必ず唱えさせられます。もっと長い文章を復唱させられることもありますが、私はある時拒否しました。それで後ろに立たされたのですが、私がロシア語で喋ったら、外国人だと気づき、「座っても良い」と言われました。これらの授業のあいだに二時間の軍事訓練──行進、気をつけ、号令への即座の服従など──の訓練がありました。この体験から、現在、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥っています。現在もまともに睡眠を取ることができません。

──病気になった人はどうしますか?
ベカリ 支払いが可能な場合のみ、治療を受けることができます。なければ受けられません。(略)

──彼らの規則に従い、再教育プログラムに参加したのですね?
ベカリ 義務です。棍棒を持った武装警官がいて、命令を拒むことは不可能です。少しでも不服従の態度を示せば、即座にやって来て激しく殴打されます。(略)

 

 


ジョージ・カリミ氏による証言(2:00~2:23)

大きな縫い目がありました

同じ第二セクションの最後に、二〇〇三年に北京で逮捕された経験を持つスウェーデン人のジョージ・カリミ氏が「出廷」した。彼は法輪功でもなければ、イスラム教とも関係ない。カリミ氏は米ドル通貨偽造の容疑で逮捕され、その後、終身刑の判決を受けてスウェーデンの刑務所に転所が決まるまで四年間を中国の留置所で過ごした。

──留置所について教えてください。
カリミ 私の牢にいたのは、ほとんどが終身刑か死刑の囚人でした。だから、看守は我々に秘密を打ち明けるのを恐れていませんでした。二〇〇六年は中国の刑務所で臓器収奪問題がもっとも敏感な話題となった年でしたから、その問題についても看守と話しました。「とても簡単なことだ」彼は言いました。「どうせ処刑されるのだから、臓器が取られるか取られないかは問題ではない」──それが彼の答えでした。「許可は得るのか?」と私が問うと、「そんな必要はない」と彼は答えました。さらに、「処刑されたほとんどの囚人から自分たちが臓器を摘出する」と彼は公言していました。また、こうも言っていました。「法輪功の信者二十四、五人を一つの省から連行し、処刑して臓器を取った」と。「全員殺したのか」と言うと、「いや、一人は病気だったので処刑しなかった」と、ごく当たり前のように答えました。

──処刑の方法は?
カリミ 銃殺です。頭を撃って処刑されました。一般に囚人には食費を含め月に三百元の小遣いが渡されますが、死刑囚に限っては、そこから二十元が差し引かれていました。「後で銃弾の代金にする」というのです。(ここでパネリストの一人、イランの女性弁護士、シャディ・サドル氏から質問があった)

サドル 特定の宗教グループや少数民族グループの扱いについて教えてください。
カリミ もし法輪功の信者であれば、それ自体が犯罪であり、直ちに拘束することができます。私の房にも新入りの数名が入り、どれほど危険かも知らず座禅を組み始めたので、慌てて制止しました。一番迫害を受けたのは法輪功、次がウイグル、チベットでした。それからキリスト教徒もいましたが、何と言っても一番は法輪功です。彼らは看守の命令に従わない唯一のグループだったからです。また、ほとんどの房に三~四人のイスラム教徒がいましたが、警官は中国人の囚人を使って彼らを虐待ぎゃくたいするのです。自分たちは手をくださず、囚人同士の争いだったと、後で言い訳出来るからです。漢族の囚人がイスラム教徒に豚肉を強要していました。チベット人に対しても同様の嫌がらせをしていました。

サドル 法輪功の人たちと話しましたか? 彼らは身体検査のことを言っていましたか?
カリミ 耳にはしました。本当に恐ろしい話を一人のフランス人から聞きました。軍か警察の病院地下にある牢で、法輪功の男性と一緒だったというのです。 彼が前をはだけたら、腹部を開けられた痕あとの大きな縫い目がありました。彼が咳せきをしたら、縫い目から血が飛び跳ねるのを目撃したそうです。……(略)

 

 

日本の無為無策も槍玉に

 

民衆法廷に関しては、NGOや市民が有識者を集めて構成する模擬裁判であり、当然のことながら法的な拘束力はない。近年で著名な民衆法廷といえば、〇三年のアフガニスタン国際戦犯民衆法廷、〇四年のイラク国際戦犯民衆法廷などがある。従軍慰安婦問題を標的にして昭和天皇に「有罪」判決をくだした女性国際戦犯法廷(二〇〇〇年)も、やはりこの民衆法廷だった。しかし、公式の裁判ではなくとも、慰安婦裁判の例をとればわかる通り、良かれ悪しかれその「判決」が世界と後世に及ぼす影響はあなどれない。今回の「法廷」を企画した「中国での臓器移植濫用停止国際ネットワーク(ETAC)」は、十年以上前からこの問題に取り組んでいるカナダの著名弁護士、デービッド・キルガーとデービッド・マタス、それから百二十人以上の関係者から聞き取り調査を行ったロンドン在住の米国人ジャーナリスト、イーサン・ガットマンを中心にオーストラリアで登録された独立非営利法人(NPO)であり、彼ら三人が提出した証拠資料だけでも膨大な量になる。 今後、「法廷」は、中国へ渡航して各種臓器移植手術を受ける外国人患者、即ち移植ツーリズムの問題へも枠を広げてゆくはずだ。その際には、中国の非人倫的医療に患者を送り、薬品他の技術的支援に加担し、資金面でも協力関係にある日本政府にも、検事の追及が及ぶのは必然であると思われる。 第二回公聴会は二月か三月に予定され、最終「判決」は五月までには下るだろう。

 

 

 

 

 

月刊Willの公式サイト(WAC)

 

関連サイト

中国での臓器移植濫用停止 ETAC国際ネットワーク(民衆法廷について)

中国の良心の囚人からの強制臓器収奪に関する民衆法廷の公式サイト(英語)