前号に続き、ロンドンで開設中の「中国の強制臓器収奪に関する民衆法廷」の模様を報告したい。 昨年末の第一回公聴会で、民衆法廷は「全会一致をもって、まったく疑いの余地なく、中国では強制臓器収奪が行われてきたことを確信する」──と、異例の中間報告を出した。次々と法廷に立った証人たちの証言から浮かび上がったのは、無実の罪で囚われた法輪功信徒たちに襲いかかる強制臓器収奪の恐怖とともに、現在、強制収容所が林立するウイグル自治区で中国共産党当局が強行する容赦ない民族浄化の実態だった。(野村旗守)

月刊WiLL-2019年4月号:「日本はなぜ沈黙するのか、カシュガル空港の臓器専用通路の意味」

 

 

 

日本はなぜ沈黙するのか、カシュガル空港の臓器専用通路の意味

 

野村旗守

 

一九六三年生まれ。立教大学卒。外国人向け雑誌編集者などを経てフリーに。主著に『中国は崩壊しない─「毛沢東」が生きている限り』(文藝春秋)、『北朝鮮 送金疑惑』(文春文庫)、『Z( 革マル派) の研究』(月曜評論社)、編著書に『わが朝鮮総連の罪と罰』(文春文庫)、『北朝鮮利権の真相』『沖縄ダークサイド』『男女平等バカ』(以上、宝島社)など多数。

 

 

 

中国はいま法輪功の信徒やウイグル人から強制的に臓器を収奪しているのだ!

 

 

前号に続き、ロンドンで開設中の「中国の強制臓器収奪に関する民衆法廷」の模様を報告したい。 昨年末の第一回公聴会で、民衆法廷は「全会一致をもって、まったく疑いの余地なく、中国では強制臓器収奪が行われてきたことを確信する」──と、異例の中間報告を出した。次々と法廷に立った証人たちの証言から浮かび上がったのは、無実の罪で囚われた法ほう輪りん功こう信徒たちに襲いかかる強制臓器収奪の恐怖とともに、現在、強制収容所が林立するウイグル自治区で中国共産党当局が強行する容赦ない民族浄化の実態だった。 一日目、カザフスタン国籍のウイグル人、ジョージ・カリミ氏に続き、二日目の第三セッションでも、やはりウイグル人のアブドゥウェリー・アユプ氏が証言台に立った。現在はトルコ在住で一九七三年カシュガル生まれのアユプ氏はアメリカに学び、言語学の修士課程を修了したが、帰国後にウイグル語を使う幼稚園を開いたとの容疑で逮捕され、投獄された。一旦は釈放されるが、以後、逮捕と保釈を繰り返すことになる。

アブドゥウェリー・アユプ氏による証言(0:00~26:00)

唾液・尿・血液を……

アユプ 二度目の逮捕は二〇一四年十二月でした。警察は私に屈辱を味わわせるため、大便まみれの便器を洗うよう命じました。三度目は翌年七月、武装警察のチームが三十分ほど、殴る蹴るの暴行を加え、その後、六時間ほど監房に投げ込まれました。この時の恐怖から、以来、夜まともに眠ることができません。また捕まって拷問されるのではないかと、常に神経が高ぶって眠れないのです。 翌月にはカシュガルから強制退去を命じられました。つまり、故郷を追い出されたのです。腕を背中に回され、手錠を掛けられ、頭巾を被かぶせられた上で警察の車に押し込まれました。警察署に行くと「タイガーベンチ」と呼ばれる尋問用の椅子に座らされ、手首、足首、頸くびを鎖で固定されました。尋問中は手のひらを開いているよう命じられ、終始、木の棒で叩かれ続けました。そして、犯してもいない罪を認めよ──と、脅おどされました。 しかし、叩かれても、威嚇されても、私は何も認めませんでした。夜になると留置場に連行され、そこで裸にされました。そこには殺人や強盗などの凶悪犯が詰め込まれていて、二十人ばかりが寄ってたかって私を強姦しました。蓋のない便器があり、耐え難い悪臭を放っていました。 ウルムチの警察署に搬送されたのは翌日です。夜九時頃に到着しました。再び「タイガーベンチ」に縛り付けられ、尋問が開始されました。腕や肩を殴打され、ふたたび口汚い言葉で脅迫されたのです。 その後、病院に連れて行かれました。頭巾を被せられていたので病院の名前はわかりません。執拗な身体検査を受けさせられました。X線を撮られ、唾液・尿・血液を採取され、冷たいジェルを塗られた上で、あちこちの臓器を検査されたようでした。 その後、テンタリフ留置場に連行され、したたか殴打された揚げ句、監房へ放り込まれました。房は小さく、ガラスでできていました。留置場の用語では「3Dの監視」と呼ばれていました。ここにも二十人ほどのウイグル人がいました。私を含め、三人が政治犯でした。留置場全体では、六割がウイグル人、四割が中国人だったと思います。しつこく訊かれたのは、「なぜ、アメリカから戻った? そして、誰がお前をここに送り込んだのか」──ということでした。他に、ウイグルの地下組織や国際機関との関係も執拗に問い質されました。 テンタリフでは死刑囚との同房はありませんでした。しかし、リウダワン監獄に移送された後、アブドゥラフマンというグルジア出身のウイグル人死刑囚と同じ房に入れられました。九月十日のことでした。 釈放後に問い合わせると、アブドゥラフマンは十二月に処刑された、とのことでした。しかし、遺体は家族のもとへは返還されず、刑務所が管理するグルサイ墓地というところに入れられたと聞きました。ひと月ほど後、家族が墓のまわりに花を植えたいと申し出たところ、一年間は墓の周囲の土を乱すことは許されない──と、拒絶されたとのことです。きっとアブドゥラフマンは臓器を抜き取られていたからだ──私はそう確信しています。埋葬の際、家族は彼の顔を見ることは許されましたが、体を洗いたいという申し出は、これまた拒絶されました。

法輪功の次はウイグル

このアユプ氏の証言からも、ウイグル政治犯収容所における強制臓器収奪は強く確認されるが、この収容所の内情が露呈したのは、前号で報じたように公聴会一日目に登場したカザフスタン国籍のウイグル人、オムル・ベカリ氏がカザフスタンとの国際協議で収容所から奇跡的に解放されたことによる。ベカリ氏の赤裸々な告発は世界中の視線をウイグルの政治犯収容所に集め、内部で実行されている臓器狩り犯罪にも目を向けさせた。 日本でもここ数年、徐々にだが中国の国家犯罪である無実の囚人からの強制臓器収奪とその売買について関心が高まっている。専門家たちによれば、年間六万~十万件に及ぶとされる中国各地での臓器移植手術だが、「現在移植される臓器の最大の供給源が、このウイグル地域だと考えられる」と、先頃、東京の文京シビックセンターで開かれたSMGネットワーク(中国における臓器移植を考える会、代表/加瀬英明)結成一周年記念セミナーで講演したトゥール・ムハメッド日本ウイグル連盟会長は発言した。「近年になってウイグル人の臓器が集中的に狙われ出したのは、二〇〇〇年からおよそ二十年間にわたって最大の供給源であった法輪功信徒の臓器がほぼ底を突いたから。次なる大量臓器供給源として、現在、三百万〜五百万人が拘束されているというウイグルの収容所が狙われた」 収容所に拘束されているウイグル人の数については百万~百五十万人とする説と、三百万~五百万人とする説の二通りあるが、ムハメッド氏は後者を採る。それというのも、中国国内に在住するウイグル人の総数は中国政府の発表によれば千二百万人だが、戸籍のないウイグル人を含めると、実際には三千万人が存在するからだという。 ウイグルでは、一九九六年から二〇〇六年の十年間にわたりウイグル人を完全に中国(漢)人化する同化政策が施行され、宗教や風習等、伝統文化にさまざまな規制が設けられることになった。ところが、これに反発したウイグル人たちが各地で抵抗運動を起こし、逆に民族心や宗教心が強まるという結果を招いた。──つまり、同化政策は失敗した。 そこで北京の中共政府が送り込んだのが、チベット自治区の担当書記として、抗議の焼身抗議自殺を続発させるほどの苛烈な圧政を断行した陳全国ちんぜんこくだった。衛星データによれば、現在ウイグル自治区内に大小合わせて二千カ所もあるという収容所が急増し始めたのは、この陳全国がウイグルの担当書記に就任して以来のことである。翌年には、自治区の警官がなんと六倍にも大増員された。同時に自治区内のあらゆる場所に検問所が設けられ、顔認証システムなど最新AIテクノロジーを搭載した監視カメラが張り巡らされることになったのだ。 軍と民間で建設された工場に付属する労働収容所の内部映像を示しながら、ムハメッド氏の解説は続く。「一日中働かされて月給はたったの三百元。普通の工場の十分の一にも充たない。労働時間以外は共産主義を称える歌を歌わされ、共産党と習近平主席は偉大だ──と、繰り返し唱えさせられる」 施設のなかでは教官の指導の下、体操の時間もある。全員丸刈りにさせられたウイグル人たちが列を組んで運動している場面が映し出される──。「この場面は、囚人たちが健康を維持するために運動しているところです。収容所がなぜ囚人の健康管理に気を遣うかといえば、移植用臓器を取り出すためのドナーだからだとしか考えられない。当局は二〇一六年から新疆しんきょうに住むすべてのウイグル人に対し、入念な身体検査を実施しました」 血液検査を含む身体検査が、以後の臓器摘出を想定してのものであるのは言うまでもない。二〇一六年といえば、まさに前出の陳全国が党書記としてウイグル自治区に送り込まれた年である。ムハメッド氏によれば、自治区の膨大な人体データはすべてデータベース化され、強制収容所の内部で管理されているという。

臓器専用グリーン通路


「特殊旅客、人体器官運輸通道」と書かれたグリーン通路(野村旗守氏のブログより)

続いてスクリーンには、やはり同年に自治区内のカシュガル空港に登場した「グリーン通路」が映し出された。──タイル張りの床の上に緑色の矢印が描かれ、「特殊旅客、人体器官運輸通道」と簡体字、それにアラビア文字で書いてある。「特殊旅客」が外交官や共産党幹部などの役職を意味するのはもちろんだが、「人体器官」とはいったい何か?「これは人間の臓器のことです。つまり、ここは人体から切り出したばかりの臓器が通る専用通路であるというわけです。カシュガルの空港からは、専用通路が必要なほど大量の臓器が毎日運び出されているのです」 ムハメッド氏がそう説明すると、聴講の来客のあいだから慨嘆の声が漏れた。 この「臓器専用通路」の写真については、ここ一年ほどの間にネット上に拡散されたので、わざわざカシュガルに行かなくとも簡単に見ることができるが、その表示があまりにもあからさまに過ぎるため、真贋しんがんを問う声もなくはなかった。さらには中共当局の意を酌んだと思われる日本人がカシュガル空港を訪問し、「人体器官の矢印はなかった」とネット上で現地報告したこともある。 しかし、目撃者は筆者の周辺の日本人も含め複数おり、さまざまな角度から写した証拠写真も存在するので、少なくとも昨年まではカシュガル空港にこの標識が存在したことは間違いない。地元のウイグル人が撮影した写真がSNSに乗って世界中を駆け巡り各地で物議をかもしたため、慌てた中国当局が抹消した──というのが真相と思われる。 しかし、この標識が登場した二〇一六年当時、「グリーン通路」は中国当局にとって秘密でもなんでもなくむしろ第十三次五カ年計画において中国が今後の経済成長を担う十大産業の一つに挙げた「医療分野」の発展を誇示する表象の一つであったようだ。そのことは「グリーン通路」の設置を告知した中国民用航空局の公式サイトからも窺える。「人体器官を輸送するグリーン通路の開設に関する通知」 そう題された通達文は、各省、各自治区、直轄市の国家衛生計画生育委員会、公安(警察)局、交通運輸委員会、各民間航空会社、各地の空港、鉄道会社、赤十字社等に宛てられ、人体から切り出された臓器の移送時間を最短にするため、関係各機関が協力し合い、あらゆる措置を講ずるよう呼びかけている。 まずは冒頭に、「(当局は)人体器官の調達及び分配の効率向上のため、輸送作業を規制し、輸送ルートを円滑化し、臓器を無駄にしないための当局の調査研究を経て、人体器官を輸送するグリーン通路の開設を決定した」 とある。まるで鮮魚を配達する大手卸業者から下請けのデリバリープロバイダへの通達のようだが、この文書によれば中国には臓器輸送の円滑化を図るためのO P O(OrganProcurement Organization=臓器調逹機関)なる専門機関まであることがわかる。臓器の輸送時間を最短化し、安全かつ正確な輸送を実施するための司令塔的な組織のようだ。OPOが講じている措置は、具体的には次のようなものだ。

 ◇通関の優先
・OPOが指定した臓器を空路で輸送する場合、OPO職員は優先的に搭乗手続きを行うことができ、さらに優先的にセキュリティチェックを受けられるようにする。
・OPOが指定した臓器を陸路で輸送する場合、高速道路等の有料道路の料金所を優先的に通過できる。
・高速バスを利用する場合も空港の場合と同様に、優先的に乗車手続きとセキュリティチェックを受けられる。
 通関だけでなく、実際の運輸過程においても、臓器を運ぶ便には特典が設けられる。
 
 ◇輸送の優先
・空路で輸送する場合、仮に予定のフライト便に遅延その他の障害があれば、航空会社はOPO指定の臓器運輸便を優先的に離陸できるように調整することができる。
・また予定のフライト便に遅延があった場合、空港は一番近い便に優先的に乗り換えられるよう案内する。・鉄道輸送の場合も同様に、列車が遅延した際には鉄道局は速やかに他の線を案内し、乗車券についても乗車後の精算を可とする。
 また、グリーン通路の設置に関しては、関係各機関が共同で行うよう指導している。
 
 ◇グリーン通路設置の共同作業
・国家保健家族計画委員会、公安省、運輸省、民間航空局、鉄道公社、中国赤十字社など関係部門は臓器輸送におけるグリーン通路設置の共同作業の仕組みを確立する。また、グリーン通路のある場所には二十四時間緊急電話を設置し、不慮の事態にも対応し、輸送を確実にする。
 …………等々。
 すなわち、ヒト臓器の輸送は国家管理の下、関係するさまざまな機関により二十四時間体制で厳重にコントロールされていることがわかる。このように細心の注意を払って輸送の効率化を図るのは、これが中国に莫大な利益をもたらす一大ビジネスだからである。現在の中国にとって臓器移植は、最早医療ではなく産業であるということだ。
 しかも、グリーン通路の目的が公文書にもしっかりと記載され、外国人も多数通過する空港の通路に表示されたということは、中国当局はこの非道な国家犯罪に対し、自責の念や罪悪感をまったく覚えていないということを意味する。
 今回の英国・民衆法廷三日目第一セッションで、グリーン通路についても言及したウイグル人の元医師(現在、英国在住)で、自身も臓器摘出に関与したことがあるエンバー・トフティ氏は、かつて来日の際、こう言ったことがある。「中国では人間の命はとても安い。臓器のほうがずっと高い」
 

 
 

 

 

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関連サイト

【EPOCH TIMES】ウイグル会議代表「身体検査を受けた人はもう2度と戻ってこない」中国臓器狩り民衆法廷

【ETAC】中国での臓器移植濫用停止 ETAC国際ネットワーク(民衆法廷について)

【CHINA TRIBUNAL】中国の良心の囚人からの強制臓器収奪に関する民衆法廷の公式サイト(英語)