中国で乳児の臓器が大人に移植されるケース急増…「赤ちゃん工場」疑惑浮上

 国際人権団体「追查迫害法輪功国際組織」(追查国際)は9月13日と10月1日、中国における児童・乳児臓器移植に関する調査報告を二度に分けて発表した。大人や子供の移植待機患者のために、ごく数日の間に提供される乳児ドナーについて、多分に不透明さを孕んでいると指摘。臓器のために計画的な妊娠・出産が行われる「赤ちゃん工場」の疑惑さえ取り上げた。

数字が示す異常性 米国との比較から見える疑問

上海交通大学医学院附属仁済医院(CC BY-SA 3.0)

 中国の児童臓器移植の規模は、公開された統計から異常な拡大傾向を示している。

 上海交通大学医学院附属仁済医院は、児童肝移植が累計3000例を超えたと公表している。いっぽう、移植件数世界一である米国のデータによれば、米国全体の小児肝移植は年間500例から600例程度で推移している。

 中国のたったひとつの医療機関が、米国全体の年間実施数を大幅に上回る規模で移植をしているという主張は、国際的な臓器移植の実態とかけ離れている。

 中国全体では、2018年に児童肝移植が1000例を突破したと報じられている。2011年以前の中国の児童肝移植数は合わせて約100例であったことから、わずか7年間で10倍以上に急増したことになる。

 この急増について、中国当局は技術の進歩と説明しているが、ドナー確保方法については明確な説明がない。

3日で子どもの腎臓が見つかる

 通常、臓器移植における待機時間は、提供者の出現を待つ不確実性により、数カ月から数年に及ぶ。米国では小児心臓移植の平均待機時間は約6カ月とされる。

 これに対し、中国では異例の事例が報告されている。中山大学附属第一医院の医師は、子供の腎臓移植で3日から5日でドナーが見つかったと述べている。また武漢協和医院では2022年11月11日、同日に3件の児童心臓移植手術が実施された。報道によれば、3つの心臓は異なる3つの省から同日に到着したとされる。

 医学的に見て、3人の児童がほぼ同時に死亡し、かつそれぞれが異なる受容者と適合に成功する確率は極めて低い。HLA型(ヒト白血球抗原型)の完全適合確率は、血縁関係のない個体間では数万分の一とされる。待機リスト上の複数の患者に対し、同日に適合するドナーが複数出現する状況は、計画的な提供体制の存在なしには説明困難だ。

 さらに2017年、吉林大学第一医院は「10名無料」児童肝移植キャンペーンを実施した。追查国際の調査員による電話確認では、同院は「肝臓の供給がたくさんあり、いつでも移植可能」と回答したとされる。

 通常の臓器提供システムでは、移植時期を事前に確約することは不可能だ。

二人の未熟児臓器 ひとりの大人に移植…

武漢協和医院

 近年、中国では新生児や極低体重乳児の臓器を成人に移植する症例が増加している。この背景には医学的な優位性がある。

 医学文献によれば、乳児臓器には以下の特性がある。第一に、強い再生能力を持ち、移植後6カ月から9カ月で成人の大きさに近づく。第二に、幹細胞を豊富に含むため、受容者の免疫系による拒絶反応が成人臓器より低い。第三に、若い臓器は耐用年数が長く、受容者の長期延命に有利とされる。

 2023年発表の論文によれば、上海仁済医院はそれぞれ生後1日と3日の未熟児2人(体重1.2kg未満)の腎臓を、20代の成人女性に移植した。この子供は脳死のドナーとされ、世界で最も幼いドナーの腎移植症例だった。

 いっぽう、この論文に対しては米国の専門医から、ドナーとされた未熟児の「脳死」判定の妥当性について疑義が提起されている。同専門医は米医学誌への投書で、「当該早産児の血圧低下状態は瀕死とは言えず、瞳孔の弱い光反射も、妊娠30週以前の胎児では正常な状態だ。生命維持装置撤去には疑問がある」と指摘した。

ドナーはどこから

 追查国際の報告には、ドナーに関する証言がある。

 かつて瀋陽陸軍総院泌尿外科で実習した鄭治医師は、『看中国』のインタビューで、2005年に北京で、政治局常務委員の側近から、湖北省武漢市にある公安庁の裏庭の地下に、信仰者やその子供が秘密裏に拘禁されており、「臓器移植のために準備されている」と聞いたと述べた。

 鄭医師はまた、1990年代後期、瀋陽のある医院で、産婦に「嬰児が死亡した」と告げて肝臓を摘出し、ある官僚に移植した事例があったと述べた。これらの証言について、第三者による確認はない。

 いっぽう、検証可能な報道もある。浙江新聞は2016年12月13日、生後4日の乳児の両腎臓が成人に移植されたと報じた。浙江大学医学院附属第一医院の医師は「児童体重15kg以上または腎臓長6cm以上なら単腎移植が可能だが、それ以下なら両腎を一人の成人に移植する」と説明した。

 新華網は2018年、安徽省で生後10日の乳児がドナーとなった事例を報じた。

 国際的な事例としては、2025年3月、タイ当局が中国犯罪組織によるタイ女性の誘拐・強制代理出産事件を摘発した。タイメディアの報道によれば、一部の新生児は出生後、血液採取や幹細胞採取が行われ、「治療」名目で他国に転売されたとされる。この事件については現在も捜査が継続中だ。

医学論文が示す実態

 中国の医学論文には、乳児の臓器が成人患者へと移植された症例報告が、いくつも存在する。

 「臨床外科雑誌」2019年11月号に掲載された華中科技大学同済医学院附属同済医院の論文によれば、2014年から2016年の間に、3歳以下の乳幼児供体から腎臓を移植された成人患者39例ある。うち9例は0〜1歳の乳児供体、30例は1〜3歳の幼児ドナーだった。

 「中華移植雑誌」(電子版)2020年第2期には、南昌大学第一附属医院による14例の乳幼児供腎成人腎移植が報告されている。

 「中華肝胆外科雑誌」2016年第8期に掲載された解放軍第九二三医院(旧第303医院)の論文は、2007年8月から2015年12月の間に、76例の児童から臓器を摘出したと報告している。

 この論文で注目すべきは、「熱虚血時間」が極めて短い、または記載がないことだ。

 熱虚血時間とは、血液循環が停止してから臓器を冷却保存するまでの時間を指す。この時間が極めて短いということは、心臓が動いている状態で臓器を摘出された可能性がある。中国では、脳死判定が法制化されていないため、こうした症例の法的根拠は不明確だ。

最高指導部が語った「150歳まで生きる」

 これらの医学的特性により、乳児臓器は高官の延命治療において理想的な供体と見なされている可能性がある。

 中国の解放軍総医院には、「981首長健康工程」と呼ばれるプログラムがある。2019年にインターネット上で流出した同院の広告動画(現在は削除)によれば、「寿命150歳」を目標に掲げ、「がん予防、心脳血管疾患予防、老化防止、慢性病管理、健康生活様式」のほか、「臓器機能再生」を重点としていた。

 2025年9月の人民解放軍の軍事パレードで、習近平氏と露プーチン大統領による「150歳寿命」を含む臓器移植と不老長寿に関する会話がアクシデントとして生放送された。中国共産党のような情報閉鎖性の強い環境で、党首の健康に関する話が極めてまれ。

「赤ちゃん工場」疑惑

 いったい、成人患者のために供給される生後間もない乳児ドナーは、どこからくるのか。

 追查国際は、こうした乳児の臓器供給網は「高度に組織化」されなければ実現できない事態であり、政府が臓器移植をめぐり多くの事実を隠していると指摘。

 追査国際に対して情報提供した中国共産党内の関係者によると、違法に女性を連行したり、買収したりさせたのち、妊娠させ、臓器移植用の赤ちゃんを出産させたりしているという。ドナー側家族の精子との人工授精を行い、ドナーと血縁のある赤ちゃんを育成し、配型成功率を高める。このほか、臓器移植のために、早産を強要されて、手術台に運ばれるという。

 こうした情報から、臓器移植のための「赤ちゃん工場」のような計画的供給網が、児童・乳児の命を「生産」して犠牲にし、非倫理的な臓器濫用が起きているとの可能性を、同団体は訴える。

 そして、国際社会が全面的な調査を展開し、中国の臓器移植に関わる医療機構と高官に制裁を実施するよう求めている。