
10月27日、横浜市で、台湾衛生福利部苗栗病院精神科部長であり、台湾国際臓器移植ケア協会副理事長を務める黄千峯医師による特別講演会が開催されました。本講演会には元横浜市会議長2名を含む議員・医療関係者が参加し、日台の医療立法協力を通じて、アルコール依存症対策と倫理的な臓器移植の実現を目指す重要な交流の場となりました。
アルコール依存症対策における日本の先進性と台湾の学び
黄医師は、日本が2013年に制定した「アルコール健康障害対策基本法」をアジア初の画期的な取り組みとして高く評価しました。この法律により、アルコール依存症が「個人の意志薄弱」という道徳的問題から「国家の公衆衛生上の責任」へと認識が転換されたことの意義を強調しました。
特に注目すべきは、国立久里浜医療センターの「久里浜方式」です。1968年の専門病棟設置以来、開放病棟・治療契約・患者自律・集団心理療法を統合した先進的な治療モデルを構築し、WHO研修センターとしても認定されています。黄医師は、この施設を実際に訪問し、年齢・性別に応じた専用プログラムなど、きめ細やかな治療体系を台湾でも参考にしたいと述べました。
臓器移植における倫理的課題への共同対応
講演の後半では、中国における強制臓器収奪問題について詳細な報告がなされました。2019年にロンドンの独立民衆法廷が「中国共産党による人道に対する罪」を認定したこと、世界医師会が囚人からの臓器摘出を禁止する決議を採択していることなど、国際社会の動向が共有されました。
この報告に対し、参加した元横浜市会議長らからは「このような事態が起きているとは信じがたい」という驚きの声が上がりました。日本の地方議会関係者にとって、臓器移植を巡る国際的な人権問題の深刻さを認識する重要な機会となったことがうかがえます。
台湾は2015年に「ヒト臓器移植条例」を改正し、違法な海外移植ツーリズムへの厳罰化と医療の透明性向上を実現しました。海外移植の義務登録制導入により、1998年から2007年にかけて中国への臓器移植渡航が急増していた問題に対し、法的な歯止めをかけることに成功しています。
日台医師会の姉妹提携と今後の展望
2025年8月8日には日台医師会の姉妹会締結が実現し、医療分野での協力関係が正式に確立されました。また、9月19日に台北で開催されたアルコール依存症国際シンポジウムでは、日本の経験が共有され、両国の医療専門家による活発な意見交換が行われました。
さらに重要な進展として、2025年1月3日、台湾立法院では超党派35名の立法委員により「生体臓器収奪の阻止と撲滅に関する法案」が提出され、第一読会を通過しました。これは民進党、国民党、民衆党の3党共同提案という画期的な取り組みであり、米英同様の立法化の流れと連動した動きです。
相互学習による医療倫理の向上
黄医師は講演を通じて、日台が相互に学び合う重要性を繰り返し強調しました。日本はアルコール依存症対策で先進的な取り組みを行い、台湾は臓器移植の倫理的規制で先行しています。この相互補完的な関係により、両国がより高い医療倫理水準を達成できることが示されました。
横浜市会では弊会「中国における臓器移植を考える会」が提出した、「臓器移植に関わる不正な臓器取引や移植目的の渡航等を防止し、国民が知らずに犯罪に巻き込まれることを防ぐための環境整備等を求める意見書提出の陳情」が9月の本会議で採択されました。これについて、黄医師は「先駆的であり全国地方議会の見本となられた」と高評されました。
6月5日に東京で開催された「臓器移植を考える日台シンポジウム」では、「臓器提供の自給自足、違法臓器移植の撲滅」をテーマに、国際的な連携強化が確認されました。このような継続的な交流と協力により、アジア地域における医療倫理の向上と人権保護の実現に向けた具体的な成果が期待されています。
私たちSMGネットワークは、このような日台の協力が、単なる二国間協力を超えて、アジア全体の人権保護と医療倫理向上に貢献する重要な取り組みであると考えています。今後も両国の専門家による交流を支援し、倫理的な医療の実現に向けた活動を継続してまいります。
