本誌三、四月号で報告した中国臓器刈り問題に関する民衆法廷の第二回公聴会が、この四月六日と七日の二日間にわたってロンドン中心部のグランド・コノート・ルームズで開廷した。
前回同様、議長を務めるジェフリー・ニース卿の挨拶で始まった第二回公聴会の発言者は、事件の証人が八名、参考人(調査研究者)十四名。計二十二名が「出廷」してそれぞれの所信を述べた。
昨年十二月の第一回と併せれば、これで証人二十八名、参考人二十一名の計四十九名が民衆法廷で陳述したことになる。
前回は現在強制臓器収奪の最大の標的となっているウイグル自治区の出身者や関係者が中心だったが、今回はそれに加えて、日本や韓国など近隣国のジャーナリスト、DAFOH(臓器の強制摘出に反対する医師団)専務理事、カナダの移植専門医、ボストンのヒト幹細胞研究所理事……等々、より多彩なメンバーが証言した。(野村旗守)

月刊WiLL-2019年7月号:「世界初潜入撮影:中国臓器移植の戦慄」

 

 

 

 

中国臓器移植の戦慄

 

野村旗守
著作家

 

一九六三年生まれ。立教大学卒。外国人向け雑誌編集者などを経てフリーに。主著に『中国は崩壊しない─「毛沢東」が生きている限り』(文藝春秋)、『北朝鮮 送金疑惑』(文春文庫)、『Z(革マル派)の研究』(月曜評論社)、編著書に『わが朝鮮総連の罪と罰』(文春文庫)、『北朝鮮利権の真相』『沖縄ダークサイド』『男女平等バカ』(以上、宝島社)など多数。

 

 

 

横たわる人間の頭部に真横から金属球を高速で強打……
人よんで脳死マシーンと─

 

日本人ジャーナリストの証言

 

本誌三、四月号で報告した中国臓器刈り問題に関する民衆法廷の第二回公聴会が、この四月六日と七日の二日間にわたってロンドン中心部のグランド・コノート・ルームズで開廷した。
 前回同様、議長を務めるジェフリー・ニース卿の挨拶で始まった第二回公聴会の発言者は、事件の証人が八名、参考人(調査研究者)十四名。計二十二名が「出廷」してそれぞれの所信を述べた。
 昨年十二月の第一回と併せれば、これで証人二十八名、参考人二十一名の計四十九名が民衆法廷で陳述したことになる。
 前回は現在強制臓器収奪の最大の標的となっているウイグル自治区の出身者や関係者が中心だったが、今回はそれに加えて、日本や韓国など近隣国のジャーナリスト、DAFOH(臓器の強制摘出に反対する医師団)専務理事、カナダの移植専門医、ボストンのヒト幹細胞研究所理事……等々、より多彩なメンバーが証言した。
 特に筆者の目を引いたのは、実際に中国の病院で移植手術を受けた患者を取材した、日本と韓国のジャーナリストの証言である。
 まずは第一日目の第三セクション。三人目の証言者として、日本人ジャーナリストの高橋幸春氏が登場した。一九五〇年生まれの高橋氏は大学卒業と同時にブラジルへ移住。現地邦字紙パウリスタ新聞社勤務の後帰国し、日本ではフリーランスとして活動を開始する。長く医療問題に取り組み、二〇〇七年から臓器移植の問題に関わり始めたのは、「状況を知れば知るほど日本移植学会が何もしていないということに気づいて追及し始めた」という。
 中国での渡航移植に関しては、手術を受けた三人の日本人患者に会ってインタビューに成功している。
 四月六日の公聴会当日、海外出張中だった高橋氏はオンライン中継を通じて生「出廷」した。

高橋幸春氏による証言

 

──インタビュー当時の模様を手短にご説明ください。
高橋 私が取材できたのは三人ですが、実際にどれほどの日本人が中国で移植を受けているか、まったくわかりません。……金額は非常に高額です。
 日本には三十三万人と言われる透析患者がいますが、そのなかの一部で少しお金の余裕がある人たちが中国で移植手術を受けています。

──日本の患者はどうやって中国の病院を知るのですか?
高橋 斡旋あっせんする団体がインターネット上に名前を出して患者を募集することもあるし、地下に潜もぐった団体を患者同士のコミュニケーションで知り、中国にわたって移植を受けている方もいます。

──患者たちは臓器の出所について、どこから来たものか知っていたのでしょうか?
高橋 患者たちは、臓器は「北京から来る」と聞かされていたようです。「北京から」とは、すなわち死刑囚の臓器だということです。患者はあまり罪悪感を持ちません。それというのも、彼らはドナーの家族に多額のお金が渡っていると説得され、良心の呵責かしゃくを持たずに済むのです。
 さらには、病院には中東など他国の外国人も大勢来ているので、自分たちは合法的な手術を受けたのだと、彼らは全員がそう思っていました……。

 
 世界初潜入撮に成功

 高橋氏の言うように、地下社会につながる中国への渡航移植の闇は深く、まだほとんど解明されていないに等しい。それというのも、日本には自国から非倫理性が疑われる外国への移植渡航を取り締まる法整備がまったくできておらず、公的な調査がほぼ不可能だからだ。
 噂レベルでは日本の製薬会社や与党国会議員の関与なども囁ささやかれてはいるが、あくまでも憶測に過ぎない。主に医療分野でノンフィクションの健筆を振るう傍ら小説も書く高橋氏は、日中を跨またぐ臓器密売シンジケートの闇を麻野涼の筆名で『叫ぶ臓器』としてフィクションのかたちで世に問うた(文芸社)。

 ──製薬会社の駐在員として上海勤務を命じられた日本人青年が帰国後、謎の死を遂げる。青年が中国で垣間見たのは、無実の罪で拘束された法ほう輪りん功こう信徒が需要に応じて生きたまま各種臓器を奪われ、その後、闇へと葬ほうむられてゆく戦慄の実態だった。……殺された青年の妹と来日した中国人の恋人、そして事件に不審を抱いた雑誌記者が背景を追ってゆくと、そこにはNPO法人を装った暴力団や大物政治家の存在が……。

 ざっと以上のような内容で、迫真の展開が話題を呼んだ。 
 一方、大胆な潜入取材により現地の移植病棟に足を踏み入れたのは、韓国・TV朝鮮の人気番組「調査報道セブン」だった。二〇一七年十月、中国最大級の臓器移植施設である天津第一中心医院の東方臓器移植センターに取材班を送り込み、内部の撮影に成功した。「殺せば生きられる」と題して放送された四十八分の番組では、隠しカメラを仕込んだスタッフが移植希望者を装って担当医や看護婦から生々しい証言を引き出し、さらには深夜に及んでまで煌々と照明を照らして手術を行う移植病棟をドローンで撮影するなど、果敢な現場取材を敢行する。
 さらに取材班は、脳死研究で知られる重慶警察学院附属病院を訪問。人を一瞬で脳死状態に至らしめる「脳死マシーン」の共同開発者のインタビューにも成功した。横たわる人間の頭部に真横から金属球を高速で強打すると、その衝撃波が頭蓋骨を超えて脳に伝達され、脳幹の活動を停止させるという。
 数知れない「死刑囚」がこのマシーンの上に仰ぎよう臥がさせられ、人為的に脳死状態にされた上で臓器を抜き盗られていったはずだ──。
 この衝撃の現地取材を敢行したTV朝鮮のプロデューサー、キム・ヒョンチョル氏が二日目の第三セクションに最初の参考人として登場した。

キム・ヒョンチョル氏による証言

 

待機時間は「二週間から三カ月」

──あなたたちが、病院で会った韓国人患者は、どのような経緯で中国で移植手術を受けることになったのでしょうか?

キム 一人の高齢の女性の場合は、家族の一人が見知らぬ人から紹介を受けたということでした。その人物が天津第一中心医院と彼女の家族をつなげたのです。

──患者たちは移植される臓器の出所を知っていましたか?
キム 認識していないようでしたし、誰も訊ねようとしていませんでした。

──移植手術を受ける患者たちの待機時間はどれくらいでしたか?
キム 朝鮮系の中国人看護師に話を聞いたところ、二週間から三カ月くらいだと言っていました。また、入院中の韓国人患者も、三カ月以上はかからないと言っていました。

──手術の費用について、実際に会った患者たちはどう言っていましたか?
キム 肝移植の場合は、十七万ドルです。さらに待機期間と術後の生活費もかかります。

──韓国で肝移植を受けるとしたら、どれくらいの待機期間が必要になりますか?
キム 韓国では最低五年と聞いています。

──待機時間の長い韓国に較べ、中国では短期で臓器移植が受けられるというのは、韓国では広く一般に知られていることですか?

キム 広く知られているか否かは定かではありません。しかし、移植を待っている患者たちは大抵知っています。だからこそ中国に手術を受けに行くのです。

──患者たちは、どうやって中国の病院を知るのですか?
キム 我々の調査では、まず医師が患者に中国の病院を勧めます。そして、手術を受けた患者が韓国に戻って広めるのです。彼らはサークルをつくって情報交換しながら定期的に集まったり、ウエブサイトも運営しています。

──天津第一中心医院の医師や看護師たちは、臓器の出所についてどう説明していましたか?
キム 医師にも、看護師にも質問しましたが、明確な答えは得られませんでした。

──明確ではないにせよ、どんな答えだったのですか?
キム 最初は答えそのものがありませんでした。何度も訊き続けたら、自主的なドナーからだ、と言われました。

──韓国側の医師はどうでしょう?彼らは中国の病院の臓器源に関して認識はありましたか?
キム 中国に患者を送り出した医師二人と会いました。患者に中国の病院を紹介した時、臓器源について念頭になかったので紹介したが、現在はもう勧めていない、と言っていました。

──その理由も聞きましたか?

キム 医師は、その質問に答えたがりませんでした。この件については、もう関わりたくないとも言っていました。

 

彼は答えました──「お金です」

 番組によれば、取材時点で過去二十年間に毎年およそ千人、累計二万人もの韓国人が移植手術を受けに中国へ渡っていたという。「殺せば生きられる」は外国メディアが中国の移植専門病棟に入って取材に成功した唯一の例であり、その映像は世界に衝撃を与えた。
 必要経費や待機時間については従来の調査がほぼ正確であることが確認された。また、この報道により「韓国の医師が中国の移植病院を紹介していた」こと、「お金を出せばさらに待機時間短縮できる」こと、「人為的に脳死を引き起こす研究が行われ、器具が開発されている」ことなど、新たな事実も発覚したのだった。

──が、韓国人スタッフらの身を挺した取材活動の十年も前に、たった一人で上海の病院に乗り込み、移植希望患者の親族の友人を装って潜入調査を試みた女性がいたことが、今回わかった。

法輪功の信徒であるこの女性、ユ・ジン氏は、河北省で中国石油天然ガス会社の配管局に勤務していた。ところが、二〇〇〇年二月、八月、九月と、法輪功に対する一斉摘発に遭い三度も逮捕され、その度に拘置所へ放り込まれる。最後の時には洗脳施設に移され、そこで看守役の警官に手酷く強姦された後、拷問され、生死を彷徨さまよう。搬送されたユ氏を診た医者は、「あと十分遅かったら死んでいた」と言ったという。

命からがら上海へ脱出した彼女は宅配の事業を起こして五年間そこで暮らすが、その間の二〇〇六年四月、にわかに信じ難いニュースに遭遇して衝撃を受ける。自分の仲間である法輪功の信徒で、いまだ身柄を拘束されている者たちが生きたまま臓器を抜かれ、移植を待つ患者のために売られている──というのだ。

矢も盾もたまらなくなった彼女は、当時の勤務地から手近にあった総合医院で、移植手術を行っていた上海中山医院へ単身乗り込み、実地調査を開始した。「法廷」に立った彼女は当時の心境をこんなふうに答えている。

ユ・ジン氏による証言

──中山医院を訊ねた時のことを教えてください。

ユ 記事を読んで衝撃を受けました。何かしなければと思い、それで会社の傍にあった中山医院を訪れて調査を始めたのです。一階のロビーに入って受付で臓器移植の相談はどこへ行けばいいのか訊ねました。そうしたら、七十代のあまり背の高くない医師が出てきました。

──何を言われましたか?

 「手術には非常に複雑な手続きが必要だ」と、彼は言いました。「それは医師の仕事です」と私は言い、「家族は何をすればいいのですか」と訊ねました。彼はこう答えました。「お金の準備です」と。「お金なら大丈夫です。心配はありません」と私は言いました。

──そうしたら?
 「すぐに患者を連れて来なさい」と彼が言うので、「でも、いつ臓器の準備ができるかわからないでしょう? 臓器がなければ、すぐ来る必要ないですよね?」と私は応じました。

──そうしたら?
 「この病院は違う。長く待つ必要はない」と、彼が言うのです。「臓器を待つ待機時間はわずか半月だ」と。

──費用についてはどうですか?
 「通常四十万元。五十万元あれば間違いない」と言っていました。私が「ドナーと家族への御礼は必要ありますか?」──そう訊ねたら、「その必要はまったくない。ただ病院に支払えばいい」という返事でした。

──臓器の出所に関してはどう言っていましたか?
ユ 私が「臓器の提供者が高齢者であれば長く保ちませんよね?」と訊くと、「心配いらない。すべて若くて健康な臓器ばかりだ」という答えが帰ってきました。

──それが法輪功の学習者であるということは言いませんでしたか?
 それについて医師が認めることはありませんでした。けれども、私の自分の経験からも法輪功学習者である可能性は高いと思います。

──というのは?
 私の街には多くの法輪功学習者がいて、警察に身柄を拘束されました。私同様、ほとんどの者が勾留中に身体検査をされたと言っていましたから。

 
 審議団との問答の最後、ユ・ジン氏は「(身分を偽って調査したことに関し)自分の安全を危惧することはないのか?」との質問に、「勾留中に死の直前まで拷問されたわけですから、もう何も恐れません」──と、きっぱり言ってのけた。
 その他、カナダの移植医療に関する技術を中国へ移転させるためのプロジェクトを持ち込まれたが、独自の判断で最終的にこれを拒絶したカナダのアルバータ大学移植臨床プログラムの理事の証言など、興味深い話がたくさんあったが、残りは次号で紹介したい。最終「判決」は六月十七日に予定されている。

 

 

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関連サイト

【TV朝鮮】「調査報道セブン」中国渡航移植の闇 ― 生きるための殺害

中国での臓器移植濫用停止 ETAC国際ネットワーク(民衆法廷について)

中国の良心の囚人からの強制臓器収奪に関する民衆法廷の公式サイト(英語)