来日した台湾の医師が指摘 日本の移植医療システム 「防犯対策徹底を」

 違法な臓器移植への対策を進める、台湾国際臓器移植ケア協会(TAICOT)副理事黄千峯氏は、日本の医療機関における移植後患者の追跡調査や、医療システム全体での取り組みの遅れを指摘した。特に、供給の不透明な中国への渡航移植患者が175人いるとの現状を受け、より適正な対策の必要性を訴えた。

 「患者は通常、医師や仲介者から提供される情報によって移植ルートを知るのです」と、インタービューに応じた黄氏は説明する。

 また、個々の医療機関の対応だけでは不十分で、日本医師会や専門医学会が主導して、移植患者の追跡調査や治療履歴の確認を行うための法整備を行う必要があるという。

 「医師会から各参画メンバーへ、さらに病院関係全体へと、政府と医師会の情報共有の仕組みを広げていくことが大切」と強調した。

 台湾では過去10年間、この問題に関する報道が継続的に行われ、一般市民の認識も高まっている。「街を歩く人の半数以上が問題を理解しています」と黄氏は述べる。

 2022年、台湾の立法院(国会に相当)では超党派30人以上の議員が反臓器強制摘出法案に署名し提出。六大直轄市と基隆市の議会も立法支持の提案を可決しており、地方議会の法整備が進む。

 いっぽう、日本では問題の存在自体の認識が低く、「何のことですか」という反応が一般的だという。この認識の差は、対策の立ち遅れにも影響していると指摘する。

情報戦への対応

 特にソーシャルメディア上での誤情報対策の必要性も強調された。台湾では国会議員の中に中国からの情報戦を専門的に研究する専門家がおり、「黒熊学院」という組織を立ち上げて啓発活動を行っているという。この活動はYouTubeでも配信され、若い世代にも分かりやすい形で情報を提供している。

 2023年に実施された厚生労働省の調査によると、現在、中国で渡航移植を受けて日本の医療機関で治療を受けている移植後の患者が175人確認されている。しかし、「これらの患者の国籍や、移植を受けた場所についての詳細な調査は行われていない」と黄氏は指摘。より詳細な実態把握の必要性を訴えた。

 「台湾では、医療関係者だけでなく、一般市民への啓発活動も積極的に行っています」と黄氏は説明する。特に若い世代への教育が重要で、SNSなどを活用した情報発信や、学校教育での取り組みも始まっているという。日本でも同様の包括的なアプローチが必要だと提言した。

 黄氏は最後に、「この問題は個々の医療機関だけでは解決できません。医療システム全体での取り組みと、社会全体での認識向上が不可欠です」と強調。日本の医療界に対し、早急な対応を求めた。

(文・佐渡道世)


黄千峯

台湾衛生部(厚労省)苗栗病院精神科部長。国立台湾大学公衆衛生大学院で疫学・予防医学研究院博士課程を修了。米国ジョンズ・ホプキンス大学公共衛生修士課程を修了。副理事を務める「台湾国際臓器移植ケア協会(TAICOT)」を通じて、台湾のみならず日本や米国など不正な臓器取引を防止する活動を続けている。