三月十八日にアラスカ州アンカレッジで、米中外交を担うトップのブリンケン国務長官、サリバン大統領安全保障補佐官、楊潔篪(ようけつき)共産党政治局員、王毅外相の初顔合わせが行われた。 会議が始まると、ブリンケン国務長官が開口一番、中国が「重大な人権侵害を行っている」と非難して、真っ先に「新疆ウィグル自治区」をあげた。・・・【加瀬英明】 


ウィグル民族を助けよう

 

 三月十八日にアラスカ州アンカレッジで、米中外交を担うトップのブリンケン国務長官、サリバン大統領安全保障補佐官、楊潔篪(ようけつき)共産党政治局員、王毅外相の初顔合わせが行われた。

会議が始まると、ブリンケン国務長官が開口一番、中国が「重大な人権侵害を行っている」と非難して、真っ先に「新疆ウィグル自治区」をあげた。

日本国民の多くが、バイデン政権発足後の米中外交当局者はじめての会談で、アメリカ側がはじめて発した言葉が「ウィグル」だったことに、違和感をいだいたにちがいない。

戦後の日本において「人権」はエゴを主張するものであって、日本の外に生きている人々を除け者としている。

そのかたわら、日本国民は「世界平和」「国際人」「グローバル」といった言葉を、ことさらに好んでいる。「平和憲法」下の一国平和主義は鼻持ちならない、臭気に堪えられない偽善でしかない。「国際交流」に憧れたり、英語の学習熱がさかんなのも、見聞きするたびに堪えられない。

私は中国がウィグル、チベット、内モンゴル〃自治区〃でジェノサイド、民族抹消政策を行っているのに反対して、来年の北京冬季オリンピック大会をボイコットするべきだと思う。

アメリカでは、最大の労働組合組織であるAFL・CIO(労働総同盟産別会議)が、北京大会のボイコットを主張している。だが、バイデン政権は気候変動による二酸化炭素社会をつくることを表看板としており、中国の協力を必要としているから、ボイコットに踏み切らないだろう。

日本としては選手が参加しても、開会式に閣僚を派遣することはもちろん、観客を送らないことにしたい。北京大会を中国による少数民族に対する非人道的な抑圧に対して抗議する舞台として、日本が文明国であることを世界に示したい。

平和の祭典だというが、北京大会は殺人犯か、泥棒が、防犯の祭典を主催しているようなものだ。

もし「一国平和主義」をいい訳にして、中国の暴挙を傍観することがあれば、今日の香港、ウィグル、チベット、モンゴルは、明日の台湾となり、明後日の日本となろう。

今月、SMGネットワーク監修、野村旗守編、『中国臓器移植の真実』(集広舎)が刊行されて、私が序文を寄せている。私はSMGネットワークの代表をつとめている。

 「昨年二〇二〇年は、中国が世界の疫病神としてみられる分水嶺となった。」

 それまで中国に対して融和的な態度をとってきた、英独、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国も、中国を嫌うようになった。

 中国が香港の民主制度を蹂躙し、新疆ウィグル自治区で百万人以上のウィグル人を強制収容所に送り込み、チベット、内モンゴル自治区(南モンゴル)においても、言語・文化を奪う民族抹消政策を進めるかたわら、周辺諸国を脅かし、強引に海洋覇権を握る暴挙に対抗して、アメリカ、インド、日本などアジア太平洋諸国が中心となって、中国を閉じこめる〃万里の長城〃を築くようになった。

 中国共産党は、新疆ウィグル自治区において身の毛がよだつ事業として、ウィグル人から臓器を奪う内臓移植を行っており、自由諸国からナチス・ドイツによるホロコーストと並ぶ残虐行為として、非難を浴びている。

 日本は中国包囲網のなかで、もっとも脆い鎖の環となっている。香港、ウィグルなどにおける、恐ろしい人権侵害を糾弾することも、制裁措置を講じることもしない。アメリカ、カナダ、イギリス、韓国、台湾をはじめとする多くの諸国が、中国へ臓器移植のために渡航することを禁じているが、日本は人権に顧慮することがなく、見ぬ振りをしている。

 私は防衛庁がはじめて設立した民間の安全保障問題研究所の理事長として、一九八〇年代前半に人民解放軍に招かれて中国各地を巡ったが、新疆ウィグル自治区を二回訪れた。人民解放軍が一九五〇年代に東トルキスタン共和国を侵略して、新疆ウィグル自治区と名づけて併合し、独立国であったチベットへ侵攻して支配した。

 新疆ウィグル自治区の行政の中心であるウルムチから、孫悟空の『西遊記』に登場する天山山脈をわきに見て、かつて中東、ヨーロッパに至るシルクロードが通っていた草原を、軍用車で疾駆した。町や村に入ると、壁にアラビア語を消した痕が残っているうえに、中国の簡体字が書かれていた。漢民族の移住が進んで、人口の三分の一に達していた。

 案内をつとめた軍装の解放軍の大佐が、「(ウィグル族は)大きく遅れた民です」と解説した。私は九世紀末に唐朝が衰退すると、バクダッドが世界の中心となって、イスラムの学者や、工匠がシルクロードを通って、中国へ天文学、数学、薬学、ガラス工芸、金属細工、磁器のコバルト顔料など伝授したことを思って、暗然となった。

 私の事務所に、亡命ウィグル人のリーダーたちが訪ねてくれるが、イスラム教徒であるのに、中国が禁じているために『コーラン』を学んだことがない。

 香港、ウィグル、チベット、南モンゴルで起っている事態は、外国に限られたローカルな問題では、けつしてない。

 中国に対して毅然とした態度をとらなければ、明日の日本の姿となるだろう。」

 

SMGネットワーク代表 加瀬英明