「中国の航空会社・南方航空のウェブサイトは、〝当社は二〇一八年から一九年にかけての七ヵ月間で、新疆ウイグル自治区のウルムチとアクスの二つの空港から中国内陸へ向けて、およそ五〇〇人分の人体器官を運びました〟と、堂々とその実績を誇っていました。彼らには罪悪感の欠片もない」(野村旗守)

月刊WiLL-2020年8月号:中国・南方航空が認めた「500人分の人体器官」輸送

 

 

2020-8-will

 

 

 

安価なウイグル人労働力の恩恵を被っている有名企業は83社にも及ぶ

 

野村旗守

 

一九六三年生まれ。立教大学卒。外国人向け雑誌編集者などを経てフリーに。主著に『中国は崩壊しない─「毛沢東」が生きている限り』(文藝春秋)、『北朝鮮 送金疑惑』(文春文庫)、『Z( 革マル派) の研究』(月曜評論社)、編著書に『わが朝鮮総連の罪と罰』(文春文庫)、『北朝鮮利権の真相』『沖縄ダークサイド』『男女平等バカ』(以上、宝島社)など多数。

 

 

 

洗脳と長時間労働、そして臓器狩り

 

 天安門事件から三一周年に当たるメモリアルデー(六月四日)に有楽町の駅頭で開かれた反中諸団体による抗議行動。街宣車の登ったアムティ・マハムティ氏(54)が、現在ウイグル民族が置かれている苦境についてこう訴えた。 「昨年、英国の法廷で裁判が開かれ、五〇以上の証言と一年間に渡る審議の結果裁判長は、中国各地の病院で移植手術に供給するため、ウイグル人の臓器が獲られているという事実を認めました。裁判長はまた、世界中のあらゆる政府に対し、中国共産党の人道に対する罪を承認するよう、要求しました」
 アムティ氏の言う裁判とは、ロンドンにおいて昨年六月一七日に判決の出た中国臓器狩り問題に関する模擬法廷、いわゆる民衆法廷のこと。最大の被害者となっているのが、法輪功信者とならんでウイグル民族だ。裁判長は、「中国における強制臓器収奪は長期に渡って行われており、現在も続いている。その結果非常に多くの人々が無残な死を遂げた」として、中国共産党政府に対し〝有罪〟判決をくだした。 「米国の国務省や専門家たちは、ウイグル自治区の再教育キャンプのなかに一五〇万から三〇〇万人のウイグル人が拘束されている、と言っています。再教育キャンプというのは、つまり強制収容所です。人々はそこで共産主義の洗脳教育と無償の長時間労働を強制され、最後には強制的に臓器を抜き取られて死んでいきます」
 再教育キャンプの目的はイスラム教徒であるウイグル人に信仰の棄却を迫り、共産主義教育を徹底することによって共産党と習近平への忠誠を刷り込むことにある。国際社会からの問責に中国当局は「教育施設」であると説明したが、信じる者は誰もない。そこに入れられた者たちは、一日二四時間徹底した監視下に置かれ、学習と労働を強制される。二〇一六年八月にチベット自治区の党書記として弾圧の限りを尽くした陳全国がウイグルの党書記に赴任して以来、理由もなく逮捕されるウイグル人の数が急増し、最新報告によれば現在五〇〇ヵ所近い収容所に三〇〇万人以上のウイグル人が勾留されているという。 「中国の航空会社・南方航空のウェブサイトは、〝当社は二〇一八年から一九年にかけての七ヵ月間で、新疆ウイグル自治区のウルムチとアクスの二つの空港から中国内陸へ向けて、およそ五〇〇人分の人体器官を運びました〟と、堂々とその実績を誇っていました。彼らには罪悪感の欠片もない」

人体器官運輸通路
人体器官運輸通路

 人体器官とは、収容されたウイグル人の体内から取り出した移植用臓器のことである。これ以外にも、カシュガルの空港にはやはり人間の臓器を意味する〝人体器官運輸通路〟という通行標識があった。一般人がならぶことの出来ない、臓器専用通路という意味である。つまり、専用通路が必要なくらい夥しい頻度でウイグル人の臓器が中国各地の病院へ向けて運ばれているということを意味する。
 来日二六年目のアムティ氏は中国で弁護士資格を持ち、日本でも法学を学んで中国進出した日本企業の法律顧問を務めていた。そのアムティ氏が日本人の同志とともに中国によるウイグル人迫害をハーグの国際刑事裁判所(ICC)に告発したのは、昨年一〇月のこと。RFA(自由アジア放送)が報じたウイグルからの内部告発などを元に、中国共産党主導による国家ぐるみの強制臓器収奪、ウイグル女性に対する強姦、強制堕胎・強制不妊手術などの人為的人口抑制、逮捕状なしの強制連行と監禁、強制労働、拷問など、民族浄化とも言える数々の無法行為を「人道に対する罪」として訴状を提出したのだった。
 ハーグには国連機関である国際司法裁判所(ICJ)もあるが、ICCのほうへ訴えたのは、中国が国連常任理事国であるが故、ICJでは拒否権を行使できてしまうからだ。
 ICCは「国際社会にとって最も深刻な罪(集団殺害罪、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略の罪)を国際法に基づき訴追し、処罰するための常設の国際刑事法廷」(外務省ウェブサイト)であるのでウイグル問題を告発するのにうってつけだが、訴追対象を「個人」に限っているため、今回彼らが相手取ったのは現ウイグル自治区党書記の陳全国個人だった。提出の翌月には「訴えは受理された」との回答がハーグから届いたが、ICJが具体的な調査に乗り出すか否かはまだ未知数である。 
 

奴隷労働サプライチェーン

 ともあれ、ロンドンの「中国臓器狩り」民衆法廷といい、アムティ氏らの刑事告訴といい、民間からではあっても国際社会が史上最凶レベルの臓器狩り犯罪に対して厳しい弾劾を浴びせ始めたことは大きな第一歩であると言える。そして、ウイグル問題に関して言えば、まだまだ波紋の広がる余地がある。
 米国のペンス副大統領は昨年、中国の人権侵害を進んで無視している米多国籍企業としてナイキを名指しで非難したが、結果的に中国のウイグル人労働力搾取に加担していたのはナイキばかりでなかった。今年三月、豪独立系シンクタンク「オーストラリア戦略研究所(ASPI)」はウイグル人に対する強制労働の実態をまとめた詳細な報告書を発表した。「Uygurs for sale(売りに出されたウイグル人)」と題されたこのレポートは、ウイグル人を連行して強制的に労働に従事させている中国の九省二七工場を特定し、二〇一七年から一九年までのあいだに少なく見積もっても八万人以上のウイグル人が故郷から中国各地の工場へ移送され、過酷な条件下で下請け労働に従事されている――と報告する。そして、「この虐待的な労働移動プログラムにより直接的・間接的に利益を得ている有名企業は八三社に及ぶ」としてその実名を公表したのだった。
 人権を無視した安価なウイグル人労働力の恩恵を被っているとして名前が上がったなかには、ハイテク、自動車、衣料品などで知られる世界的有名ブランドがずらりとならぶ。
 Acer、アディダス、アマゾン、アップル、ASUS、BMW、ボッシュ、BYD、カルヴァン・クライン、フィラ、ギャップ、ゼネラル・モーターズ、グーグル、H&M、ハイアール、ファーウェイ、L.L.ビーン、ラコステ、ランドローバー、レノボ、LG、メルセデス・ベンツ、マイクロソフト、ナイキ、ノースフェイス、ラルフ・ローレン、プーマ、サムスン、フォルクスワーゲン、ザラ、ゼニア、ZTE…………といった具合。
 中国の巨大企業は勿論だが、世界に名を轟かす多国籍企業の多くがサプライチェーンの一環として現代版奴隷使役ともいえるウイグル人労働に依拠していたとは驚きである。報告書はまた、「ウイグル人を強制労働に利用している企業は、強制労働によって製造した製品の輸入を禁じ、サプライチェーンへのリスクに関する報告を義務付ける法律に違反している可能性がある」と警鐘を鳴らす。そして、名前の挙がったなかには、名だたる日本企業も含まれていた。

 

日本企業も一一社

 リストに上がったのは、日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱電機、ミツミ電機、任天堂、パナソニック、ソニー、TDK、東芝、ユニクロ(ファーストリテイリング)、シャープの一一社である。
 NPO法人日本ウイグル協会は、名指しされた日本企業一一社に対し、「貴社の製品がウイグル人の強制労働によって生産されている可能性についてのご質問」として公開質問状を送った(四月三〇日)。
 一、貴社の製品がウイグル人の強制労働によって製造されている可能性については、どのような見解をお持ちでしょうか。
 二、一の質問に対し、もし、貴社が現時点では確認できない場合、中国政府やサプライヤーに対し、企業倫理と人道的立場から確認していただくことは可能でしょうか。
 三、サプライヤーの選定において、人権デューデリジェンス(企業における人権規範の遵守)の義務化を実施していますでしょうか。
 四、仮に貴社の製品がウイグル人の強制労働によって(一部であれ)製造されている場合、その製品を日中国において製造・調達することを、国際法・国内法の順守、企業倫理、人道的見地から停止することは可能でしょうか。
 五、貴社がウイグル人の強制労働に意図せず関与している疑いが浮上していることについて、実態調査を行い、疑惑を払拭するための対策を講じる意思の有無について聞かせてください。

 これらの質問に対し、メールあるいは書面で回答を寄せたのは七社。

この内、例えばミネベアミツミグループ企業であるミツミ電機が、「(報告書が指摘した)強制労働を行っているとされている企業と弊社が関連つけられていることにつきまして調査いたしましたところ、該当する取引は確認できませんでした」と回答したように、各社はASPIレポートで名指しされたことを承知していたが、ウイグル人強制労働との関連性に関しては「確認されていない」(ユニクロ、ジャパンディスプレイ他)、「真摯に調査する」(ソニー)などと答え、当然のことながら害意を否定した。
 任天堂、パナソニック、東芝、シャープの四社については、六月一五日時点でまだ回答がない。

 

ウイグル労働者こそ「徴用工」だ!

 

 「強制労働」と聞けば我々日本人が真っ先に頭に浮かべるのは、未だ解決を見ない戦時朝鮮人徴用工問題である。第二次世界大戦中、日本企業の下請けとして働いた朝鮮の労働者やその遺族が、低賃金で差別され奴隷労働に従事させられたとして、訴訟を起こした。
 この問題について韓国政府は「六五年の日韓請求権協定で解決済み」としてきたが、一昨年一〇月、韓国最高裁が従来の見解を覆して新日鉄住金へ賠償判決を命じ、日本側が猛反発したことは記憶に新しい。徴用工問題は慰安婦問題とならぶ日韓歴史問題の最重要課題として浮上することになった。
 しかしこの時、新日鉄住金を訴えた原告のなかに本当の徴用工は一人もいなかった。彼らは日本企業の募集に応じて渡日した志願労働者であり、勿論強制的に動員されたわけではなかった(日韓近現代史に詳しい西岡力麗澤大学客員教授はこれらの事実を踏まえ、「徴用工」という呼称を廃し「朝鮮人戦時労働者」と呼び替えるよう提唱している「正論」二〇一九年一月号)。
 また徴用令で動員された大戦末期の朝鮮人徴用工にしても、決して奴隷労働者として扱われたわけではなかった。例えば、大戦末期に皇居や霞が関などの首都機能を移転させるための突貫工事が断行され、もっとも過酷な労働条件下にあったと思われる長野市の松代大本営建設工事には六〇〇〇-七〇〇〇人の朝鮮人労働者が働いていたが、地元住民の声を聞くと彼らが差別待遇を受けていた形跡はない。 「威張っている現場監督がいた」「野菜を盗まれた」……等、松代にいた朝鮮人たちが良い印象ばかりを残しているわけではないが、地元の人々の記憶に残っている朝鮮人労働者の思い出は総じて親しみに溢れ、穏やかなものが多い。
 「朝鮮の子供たちと一緒に遊んだ」「飴をもらった」「おにぎりをあげた」「朝鮮の若者が田植えを手伝ってくれた」……等々と、地元住民たちが編纂した『松代でなにがあったのか!』(龍鳳書房、〇五)は地元民の代表的な声を紹介している。
 古老の一人は往時をこう振り返る。 「松代の穴掘りも、わしらだって勤労奉仕で、つらい思いをしたんだ。それこそ給料をもらってやったわけじゃない。朝鮮の人たちは給料がもらえた。だから幹部連中は結構いい生活をしていた。肉もあったし、金も持っていた。むしろわしらの方が、家は取られるわ、金はないわ、食べるものもろくにないない中で、連日勤労奉仕だ。だから朝鮮の人が食糧を分けてくれることだってあったんだ。わしらだって被害者なんだ」
 つまり、「低賃金で差別された奴隷労働者」という朝鮮人徴用工のイメージは、多分につくられたものであることが判る。
 頭から黒い袋を被せられて各地の労働現場に集団で強制連行され、差別的な待遇で長時間の奴隷労働に使役されているのは現代のウイグル人たちのほうだ。人権を訴える日本の徴用工支援者たちは、是非とも現代のウイグル人労働者にこそ目を向けてもらいたい。  

 

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関連サイト

【EPOCH TIMES】ウイグル会議代表「身体検査を受けた人はもう2度と戻ってこない」中国臓器狩り民衆法廷

【ETAC】中国での臓器移植濫用停止 ETAC国際ネットワーク(民衆法廷について)

【CHINA TRIBUNAL】中国の良心の囚人からの強制臓器収奪に関する民衆法廷の公式サイト(英語)